株式会社ISSUEでは、“大企業における新規事業立ち上げ”にフォーカスを当て、当社がこれまでに関わった企業の事業担当者様へのインタビューを通じて、大企業で新規事業を成功させたストーリーや、成功のための必要なノウハウなどを紹介しています。新規事業に携わっている方、興味がある方に、少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。
〜人々に「はたらく」を自分のものにする力を〜をミッションとし、転職サービス「doda」やハイクラス転職サービス「doda X」を通じて人材紹介、求人広告、新卒採用支援などを提供するパーソルキャリア。同社は「キャリアオーナーシップを育む社会の創造」、すなわち、はたらく人々が自らの意思で自身のキャリアや人生を選択することができる社会の実現を目指しています。その実現に向け、自らの可能性を知り選択肢を増やすための「学び」と、「学び」と「はたらく」をつなぐために、2023年2月より新規事業の一つとして社会人向けリスキリングサービス「MyLearning(マイラーニング)*」のβ版の提供をスタートしました。「MyLearning」は、事業開発・マーケティング・UXデザインなど、日々の業務や未来のキャリア開発に役立つコンテンツが、現場で活躍するビジネスパーソンによって投稿されるサービスです。
*インタビューは2023年時点のものです。現在「MyLearning」は「PERSOL MIRAIZ」に統合しています。
パーソルキャリア株式会社 工藤 大助様PERSOL MIRAIZ事業責任者兼MyLearning事業責任者
大日本印刷株式会社にて海外事業開発に従事後、パーソルホールディングスに入社。グループ経営企画部にて、APACでのM&A支援、グループ中期経営計画策定、パーソルブランド立ち上げ、グループ広報・PRをリード。2023年2月、事業責任者として社会人向けリスキリングサービス「MyLearning」を立ち上げ後、7月より、はたらく未来図構想統括部「PERSOL MIRAIZ」事業責任者を兼任。
株式会社ISSUE 代表取締役社長 水野 貴弘
野村証券に入社後、株式会社ファインズのグループCFOとして財務面での戦略立案/資金調達/M&A/他社とのアライアンス/上場準備等をリード。事業面では子会社を2社設立し、メディア事業及び人材事業を推進。YCP Solidianceではスタートアップ×ファインナンス(M&A/資金調達/ビジネスDD等)を軸としたプロジェクトに従事。2021年、株式会社ISSUEを創業し、代表取締役に就任。
水野:「MyLearning」の事業構想自体は、工藤さんがゼロから立ち上げたのですか?それとも、それっぽいものがもともと社内にあったのでしょうか?工藤:社内にもともとあった訳ではありません。ですが、ラーニング領域、つまり「学びの機会の提供」は、パーソルグループ全体で「事業を通じた社会課題の解決」の一つとして注力すべきテーマとして掲げています(※2)。ラーニング領域をパーソルグループとして体現するなら何ができるのかーまずは国内外の市場をリサーチしながら、参入戦略を練っていきました。まさに水野さんが得意とする分野だと思います。M&Aを視野に入れてリサーチしたり、アメリカや欧州などで先行する企業の情報収集だったり、あまりアセットを使わずに展開する方法など、サービスを立ち上げる前段階では様々な検証を重ねました。結果、Web上で学習コンテンツをキュレーションするサービスとして展開するのが適していると判断し、「MyLearning」がスタートしました。(※2)「パーソルグループ中期経営計画2026」
水野:現在「MyLearning」は実行フェーズに入っていますが(2023年2月よりβ版を提供開始)、多くの大企業の場合、そこに至るまでのハードルが高いと思います。そこを超えられたポイントは何だったと思いますか?
工藤:意思決定者(決裁者)を味方につけたことが一番大きかったと思います。
事業がちゃんと成果を出すことを証明し、投資してもらうというプロセスで進めるのも良いですが、新規事業は簡単に実績が出ません。もちろんパーソルグループ内では社内起業制度もありますが、審査を重ねるのでそのプロセスを踏むのはある程度の時間がかかってしまう。私は事前に意思決定者を巻き込みながら、密なコミュニケーションを重視して行動しました。
水野:ある程度経験を重ねて、何か自分で事業をやりたいなってなった時に、今だとスタートアップに転職する人も結構増えていると思います。そうではなくて、今の大企業の中で新規事業をやろうと決断した理由は何だったのでしょうか。
工藤:ホールディングスから事業会社に移る時に、グループ内と外どちらでやるのが自分の価値を出しやすいかで決断しました。ラーニング領域のスタートアップは、まだ市場ができておらず、分散しています。中小企業が参入している研修系、テクノロジーをベースに効率化するサービス系、そして学校、学生向けに特化している学習系といった感じです。
そう考えると、人的なネットワークもあり、企業ビジョンが定まっている大企業の方が、勝ちやすく、さらに、新規事業であれば相対的に自分でも価値が出しやすいと考えました。
水野:僕はもともとスタートアップ側にいたこともあり、自分の会社で新規事業立ち上げのコンサルも行っていますが、やはり大企業の新規事業はとても難易度が高いなと思います。将来的には大企業の新規事業向けの人材紹介事業もやろうと思っていて、今のお話はとても参考になりますね。
水野:大企業における新規事業の立ち上げで、人を採用するのか、それともコンサルに依頼するのかはその企業によると思いますが、国内のスタートアップって、今でも割とスポットライトが当たり続けていますよね。一方で、大企業の新規事業部に行きたい、という声はあまり聞かない気がします。でもそこに興味がある人は絶対いるはずなので、このインタビューを通じて、少しでも面白いと思ってくれる人が増えたらいいなと思います。
工藤:大企業の中で新規事業に興味がある人は、多分マイノリティだと思いますね。スタートアップに限らず、大企業の新規事業開発部門やCVCも含めて、プロダクトを生み出し成長させるという括りがあった時に「私できます」「私やりたいです」という人材は、中途採用が多い印象です。VCやコンサル出身とか。スタートアップでちょっと疲れたから次は大企業で、みたいな人もいるかもしれない。ですが、全体で見た時に母数は圧倒的に少ないので、大企業内で立ち上がる事業が少ないのだと思います。
工藤:結局は、M&Aによって既に出来上がっている事業を買収するのが、新規事業を創出する一番近道ってなってしまいますよね。だからこそ新規事業、もしくはBizDev(ビズデブ)や、プロダクト開発といったチームに入れるような人材は、これから市場で価値が出そうですよね。
水野:「MyLearning」をスタートすることが決定してから、実際にβ版を出すまでの期間はどのくらいだったのですか?工藤:2021年は参入のための市場リサーチに費やし、22年から立ち上げを考え、実際には2023年の2月からβ版をスタートしました。7月には、吸収分割という形でパーソルイノベーションからパーソルキャリアに「MyLearning」を移管しました。サービスをスタートしてから、まだ10ヶ月程度ですね。水野:では、「MyLearning」を立ち上げてみてどうでしたか。また、「PERSOL MIRAIZ」と一緒になったことで、今後どう「MyLearning」を展開していく予定ですか?工藤:「MyLearning」のゼミは、水野さんが講師をした回を含めて、9月末までに合計6回実施しました。「MyLearning」は、現場で活躍するビジネスパーソンの投稿から、日々の業務につながる学びが得られるWebキュレーションサービスとしてもともと展開していましたが、やっぱり少人数で実施するゼミの方が、実践で活かせる学びの機会を提供するのには合っているなと思いました。今後はゼミをコミュニティ化していくことも考えています。オンラインで学べるキュレーションサービス・インタラクティブかつ期間を区切ったゼミ形式の場を両方兼ね備えて、その後はコミュニティで仲間づくりをしていく。この大きく三つの要素を「PERSOL MIRAIZ」にインストールしていき、そのインストールの供給源が「MyLearning」で構築されるといった仕組みにしていきたいですね。
水野:大企業で新規事業に挑戦することの面白さをお聴きしても良いですか?
工藤:新しい事業を立ち上げる方法は、自分で起業する、既にあるスタートアップに参画する、そして大企業で新規事業を立ち上げるというおおよそ3方向がありますが、やはり自分がどういう生き方をしたいかによって、面白さって変わってくるのかなと思いますね。欧米の市場とは異なるかもしれませんが、日本市場においては、安定したアセットがあり、人材が既にそこにいる大企業の環境の方が、同じ時間と頭の使い方をするのであれば新規事業はやりやすいのかなとは思います。ただ、大企業は大企業で、意思決定のプロセスなどでやきもきする部分もあるとは思いますが。
水野:なるほど。ちなみにどんな人が、大企業で新規事業を立ち上げするのに向いていると思いますか?これも企業カルチャーによるところが大きいので、一般化しにくいと思いますが、共通項があれば伺いたいです。
工藤:例えば、経営層でマネジメント経験も豊富で、企業が「ぜひうちで働いて欲しい」と手を挙げるような人だとしても、実際に入社してみると上手くはまらないケースがあります。それは企業カルチャーが合わなかったからという理由もあると思いますが、結局は新しい環境や領域に、その人がそれまでの成功体験や慣習をいかにアンラーニングして取り組めるかだと思います。もちろん、マネジメント領域でステップアップするために、キャリアを積み重ねていくパターンもあると思います。一方で新規事業は、チームビルディングだったり、前任と自分はどう違うのかを自己開示することが必要だったりします。前職での実績や、成功体験を前提とすると、新しい会社ではバリューを発揮できなくて終わるパターンもあります。大企業という箱の中で何か新しいことをやろうとすると、基本的には想像以上の説明や責任を求められます。それに耐えうる覚悟を持った人でないと、大企業での新規事業は難しいのかなと思います。
水野:スタートアップで経営層だったから、大企業でも活躍できるかというと、全然違いますよね。
水野:ところで、2023年の8月に「新規事業の効果的な調査の仕方」というテーマで「MyLearning」でゼミを持たせていただきました。(※3)改めて今回自分を講師に選んでいただいた決め手は何だったのでしょうか。
工藤:新規事業領域で起業されている方や、メガベンチャーやVCでマネジメントをされている方をターゲットに、ゼミの講師を依頼していました。今年パーソルキャリアはIVS(※2)のスポンサーでして、その関係で期間中イベントを開催しました。そこに水野さんが来てくださって、色々と情報交換をしたのが最初の出会いでしたね。
水野さんは、コンサルティングや市場リサーチ領域を専門とされているので、水野さんのゼミを通じて、それこそ新卒1年目で誰もが学んだ方が良い汎用性の高いポータブルスキルを学べると思ったので、講師の依頼をしました。
水野:「MyLearning」のゼミの受講生は、どんな方を対象としていたのですか?
工藤:例えばエンジニア職というよりは、大企業の新規事業部門やスタートアップで、プロダクトを作り、その成長をミッションとしている、というキャリアを志向する人を想定していました。本を読めばわかる体系的なものよりは、現場感があって、明日からでもすぐに実践できるような内容でスタートしています。ゼミのタイトルに超実践、と銘打っているくらいなので。その方が参加者も前のめりになりますしね。
水野:僕のゼミを受講した方々の反応はどうだったのでしょうか?
工藤:水野さんのゼミは、3回目の講義の中で実際に基礎インタビューの実践を行いましたが、それが受講者にとって、実際に現職で使うイメージにつながりやすかったと思います。定性的ですがアンケート結果では、受講者の満足度は90%後半と非常に高かったです。
水野:「MyLearning」のゼミの受講生は、どんな方を対象としていたのですか?
工藤:例えばエンジニア職というよりは、大企業の新規事業部門やスタートアップで、プロダクトを作り、その成長をミッションとしている、というキャリアを志向する人を想定していました。本を読めばわかる体系的なものよりは、現場感があって、明日からでもすぐに実践できるような内容でスタートしています。ゼミのタイトルに超実践、と銘打っているくらいなので。その方が参加者も前のめりになりますしね。
(※3)水野が携わった「MyLearning」のゼミは、「PERSOL MIRAIZ」に統合。
工藤:あと、水野さんには2つ期待していることがあります。1つ目は「MyLearning」のゼミで、他の講師の方とも連携していただきながら、今後も仲間として関わってほしいです。2つ目は、水野さんのコンサルティング会社が、大企業の新規事業の立ち上げに関わる際に、担当者にスキルやノウハウをインストールできるような形で、サービスを提供していって欲しいですね。いわゆるコンサルティング事業とは違って、企業側の担当メンバーを将来的には自走で新規事業ができる状態にするっていう、「新規事業開発 Enablement(イネーブルメント)」みたいなイメージです。
水野:面白そうですね。ぜひ今後ともよろしくお願いします。本日は貴重なお話をお伺いできてとても勉強になりました。ありがとうございました。